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アルベルト・クピード テノール・リサイタル

アルベルト・クピード
デビュー35周年リサイタルによせて

岸 純信(オペラ研究家)

 オペラ界の第一線に長らく立ち続けるテノール、アルベルト・クピード。彼の名を目にするたび、思い出す光景がある。1980年代後半のこと、大阪の大学に通っていた筆者は、アルバイトでピアノ伴奏をしていた合唱団の稽古場で一枚のチケットを手渡された。「とても優れた歌手のカップルがコンサートを開くそうで、時間があれば聴いてみて下さい」とのことであり、そのまま会場のザ・シンフォニー・ホールに赴いた。出演はソプラノの黒田安紀子さんと夫君のアルベルト・クピード氏。1977年5月にかのミラノ・スカラ座で《ラ・ボエーム》のミミを歌われた黒田さんの凱旋帰国公演に、夫のクピード氏が華を添えるといった形の演奏会であったと思う。

 筆者がクピードの声に接したのは勿論それが初めてのことである。プログラムは19世紀末のオペラを中心に纏められていたが、まずは何より、彼の若々しくストレートな声の勢いと、高音域に差し掛かる辺りで響きをさっと染め上げるような、独自の甘美な音色に強く魅せられた。そして、ほかに印象深かったのは、歌声が結ぶ絆の確かさ。「故郷に錦を飾る」重圧からか、第一曲では相当の緊張を隠せずに居た黒田さんが、次の二重唱では見事に声が安定し、ご主人の剛球の歌にしかと寄り添っていた。曲は確か、チレアの《アドリアーナ・ルクヴルール》の二重唱。ユニゾンで進行する十小節に、二人が与えた劇的な迫力が今も記憶に残っている。

 ジェノヴァ近郊ポルトフィーノ生まれのクピード。高名な指揮者ジュリーニに認められてスカラ座研修所で研鑽を積んだ彼は、1976年にジェノヴァのテアトロ・マルゲリータで《蝶々夫人》のピンカートンを歌って正式な舞台デビューを飾っている。この、初役がピンカートンであったことも、喉の生まれつきの「逞しさ」を何より実証するものだろう。そして、相手役が後の伴侶たる黒田さんであったこともまた、舞台人生のスタートを天が祝したということなのかもしれない。

 さて、テノーレ・リリコ・スピントの新星として歩み始めたクピードは、期待の新人としてイタリア中から招かれるようになる。当時の彼の勢いを知る一つに、1981年ヴェネツィアで上演された《マリア・デ・ルーデンツ》(ドニゼッティ)のライヴ録音があり、そこでは、ひときわ熱っぽいクピードの声が、バリトンのヌッチとの二重唱を大喝采へと導いている。それから、ミラノ・スカラ座での数々の名演。《ルチア》のエドガルドや《ロンバルディ》のオロンテで好評を博し、88年の《二人のフォスカリ》(ヴェルディ)では映像も収録された。終幕の離別のシーンで、悲痛な胸のうちを男性らしい率直さで歌い上げた姿が忘れがたい。なお、こうした彼の歌の美点は近年の録音でも明らかで、2004年収録の《メフィストーフェレ》(ボーイト)でも、衰えぬ声量と肉厚の高音域が魅力的である。

 さて、ここで一点特筆しておきたいことがある。1950年代を「歌手の黄金時代」と呼ぶならば、21世紀の現在は「演目の黄金時代」である。埋もれたオペラが次々と発掘され、往時の美学に相応しい歌唱法もどんどん蘇っている。しかし、その一方で歌手の個性や適性が徐々に細分化され始め、例えば、テノール界でも軽くしなやかな声が目立つようになってきた。でも、それだからこそ、長いキャリアを誇りながら喉のエネルギーと瑞々しい響きを失わぬクピードの存在感もまた、よりいっそう重要視されねばならないものと筆者は考える。数年前に東京で彼が演じた《道化師》のカニオ役に接して、志を新たにした声楽学習者も少なくないようである。また、クピードの熱唱に触発されて、歌手の黄金時代への懐かしさを噛み締める向きも多いに違いない。

 イタリア国内のみならずウイーン国立歌劇場やパリ・バスティーユなど欧州各地で活躍し、藤原歌劇団や新国立劇場、サントリーホールなど日本の舞台にも立ち、《マクベス》《仮面舞踏会》《ラ・ボエーム》《アイーダ》等で成功を収めてきたクピード。今回のデビュー35周年の記念リサイタルでも、スカラ座のマエストロ、ジェイムズ・ヴォーンのピアノに載せて、ドニゼッティの《アルバ公爵》やチレアの《アルルの女》の名アリアなどイタリア・オペラの名曲を存分に歌い上げ、甘いカンツォーネも堪能させてくれるという。

 また、今回のプログラミングでは、彼のもう一つの得意分野であるフランスものにも注目したい。骨太の響きと清々しさを兼ね備えるクピードだからこそ、マイヤーベーアの〈おおパラダイス〉(《アフリカの女》)やグノーの珠玉のアリア〈昇れ、太陽よ〉(《ロメオとジュリエット》)もより鮮やかに響き渡ることだろう。今回のステージで、クピードの「万年青春」の歌いぶりが多くの人を楽しませ、声の力と技の多様な在り方についても一つのヒントを呈してくれることと、大いに期待している。

曲目

ドナウディ: 優雅な絵姿
S.Donaudy: Vaghissima sembianza

トスティ: 魅惑/最後の歌
F.P.Tosti: Malìa/L’ultima canzone

ジョルダーノ:《フェドーラ》~ “愛さずにはいられぬこの思い”
U.Giordano:《Fedora》 ~ “Amor ti vieta”

マスネ:《ウェルテル》~ “春風よ、なぜ私を目覚めさすのか”
J.Massenet:《Werther》 ~ “Pourquoi me réveiller, ô souffle du printemps”

ヴェルディ:《ルイザ・ミラー》~ “穏やかな夜には”
G.Verdi:《Luisa Miller》 ~ “Quando le sere placido”

グノー:《ロメオとジュリエット》~ “ああ、太陽よ昇れ”
C.F.Gounod:《Roméo et Juliette》 ~ “Ah! léve toi soleil”

シュトラウス:《献身/万霊節》~ “8つの歌” op.10
R.Strauss:《Zueignung/Allerseelen》 ~ “8 Lieder” op.10

タリアフェッリ&ヴァレンテ: 情熱
E.Tgliaferri & N.Valente: Passione

ディ・カプア: あなたの口づけを
E. di Capua: I’te vurria vassa!

チョッフィ: 5月の夜
G.Cioffi: Na sera’ e maggio

カルディッロ: カタリ
S.Cardillo: Core ‘n grato

デ・クルティス: 君を求めて
E. de Curtis: Tu ca nun chiagne

演奏家の希望により、曲目等公演内容に変更が生ずる場合もございます。あらかじめご了承ください。
※未就学児童の入場はご遠慮ください。

アルベルト・クピード
テノール・リサイタル

2010年9月30日(木)19時
Thursday, 30 September 2010 at 7p.m.

東京オペラシティコンサートホール
Tokyo Opera City Concert Hall

ピアノ:ジェームズ・ヴォーン
Piano:James Vaughan

チケット発売日

友の会優先発売:好評発売中
DM会員優先発売:好評発売中
一般発売:好評発売中

チケット価格

S:¥12,000
A:¥9,000
B:¥7,000
C:¥5,000

お問い合わせ・お申し込み

東京プロムジカチケットデスク
03-3372-7050

お問い合わせ
 

チケットぴあ(Pコード 104-900)
0570-02-9999

イープラス
http://eplus.jp

東京オペラシティチケットセンター
03-5353-9999

東京文化会館チケットサービス
03-5685-0650

東京芸術劇場チケットサービス
03-5985-1707

主催:
東京プロムジカ

後援:
イタリア文化会館

制作協力:
アリタリア - イタリア航空

 
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