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レオ・ヌッチ バリトン・リサイタル

至高のバリトンの至芸に触れる ~レオ・ヌッチへの期待

加藤 浩子(音楽評論家)

 劇場を揺るがすような歓声が続いていた。
舞台のうえの名バリトンは、にこやかにほほ笑んでいる。ついさっきまでの熱唱が嘘のようだ。
「ビス!」アンコールをもとめる声が、そこここで湧きあがっている。

 同調したい気持ちを、筆者は必死で押し殺した。ここまで渾身の名唱を披露してくれたひとにもう一度歌えというのは、いくら何でも無体失礼というものではあるまいか。今聴いたばかりの『2人のフォスカリ』の幕切れのアリアがどれほどすばらしい曲であるか、十分すぎるくらい分かったのだかから。
しかし奇跡は起こった。ヴェネツィアの総督のしるしであるマントを脱ぎ、死に装束を思わせる白衣だけになっていたレオ・ヌッチは、再び歌い始めたのである。
その瞬間、死に装束が燦然と輝いたと感じたのは、筆者だけではあるまい。

 レオ・ヌッチ。彼の出たステージに、いったい何回接したことだろうか。そのたびに降参してしまう。朗々とした美しさを保ちながら、一瞬にして役に入り込み、その心の深みをえぐりだしてしまう奇跡のような声。役柄になりきる雄弁な演技。そして、歌い終わった後のすがすがしく、人なつこい笑顔。失礼を承知で言うならば、ヌッチには一度も裏切られたことがない。公演のキャンセルじたい、いたって少ない(本人も、予定をキャンセルすることは好きではないという)。しかも今年68歳になるヌッチは、43年のキャリアと61のレパートリーを誇るヴェテラン中のヴェテランなのだ。もっとも多く歌っている『リゴレット』は、この1月のスカラ座の公演までで合計441回を数え、非公開や演奏会形式などを含めると1000回近くにのぼるという。とかく体調に左右されがちな歌手の世界でこれがどれほど稀有なことか、オペラを愛するひとなら理解できるだろう。

 ヌッチが出た舞台には、必ず心に刻みつけられる強烈なシーンがある。『仮面舞踏会』の第3幕で、ヌッチ演じるレナートが妻アメーリアの裏切りを信じ込み、リッカルドヘの復讐を決意した瞬間、目を剥き出して劇場内を圧倒した戦慄。『ナブッコ』の第2幕で、思いあがった暴君ナブッコが、神を冒涜する台詞を吐いた時の、狂気を担った輝かしい声の炸裂。『セビリヤの理髪師』の第1幕で、ロジーナの女としての利発さを悟ったフィガロが、主導権がロジーナにわたったと認めた瞬間に溢れ出した、陽気な屈服。そして十八番中の十八番、『リゴレット』第2幕の最後を飾るジルダとの二重唱を、喝采に応えてアンコールする(何度も体験した!)時の、体が張り裂けんばかりの気迫と高揚。ヌッチの舞台を追うたびに、劇場が沸騰する瞬間に立ち会える確率が高くなる。

 なかでも冒頭に記した、昨年の秋にモデナの小さな劇場で聴いた『2人のフォスカリ』は圧巻だった。ヴェルディの初期に属し、オペラに政治を導入した野心的な作品と認められながらも、作品自体が地味なこともあって上演の機会になかなか恵まれないこの作品に、ヌッチは文字通り生命を吹き込んだ。ヌッチの演唱に接してはじめて、統治と親子の情愛との間で葛藤し、最後は息子を奪われて息絶える老総督の苦悩が、ありありと迫ってきたのだ。数日前に同じ『2人のフォスカリ』を別のタイトルロールで観て、それも悪くなかったのだが、ヌッチが加わることで他の歌手も刺激され、全体のレベルが上がって、より緊張感あふれる舞台となったのがよくわかった。今のイタリアで、これだけ周囲に影響を与えることのできる歌手にはまずお目にかかれない。舞台のヌッチには、それを分からせる説得力がある。それは彼が、歌手であると同時に、演劇人であることを強く意識しているからではないだろうか。

 「オペラ、特にイタリア・オペラは何よりもまず演劇、お芝居なのです」とヌッチは言う。その人物になりきるために、ヌッチが実践するのは楽譜を読み込むことだ。押しも押されぬ名歌手になった今でも、ヌッチは「その作品の中に入るよう努力する」ために、楽譜を研究することを怠らない。ヌッチは言う。「人物像を研究したりはしません。それは、作曲家がすでに書いてくれているのです」(以上、2002年ボローニャ歌劇場来日公演のプログラムより引用)。

 たとえばヴェルディの場合、大げさに感情を強調しながら歌うと、「演劇的な深みが消えてしまう」とヌッチは言う。ヴェルディは演劇人として革新的だった。彼が音をつけた言葉は、「歌としてでなく台詞として語られるときにも、テンポが実に的確」なのだそうだ(以上ベンティヴォリオ、山崎訳『わたしのヴェルディ』より引用)。このような言葉と音楽への深い理解があるからこそ、ヌッチの歌い演じる役柄は真実の響きをもつのだろう。

 ちなみにヌッチは、1988年以来ドイツの歌劇場には出演していないが、それは音楽をねじまげる演出に賛同できないからだと明言している。楽譜を無視した演出家主導のオペラは、彼の考える「演劇」としてのオペラとは異なるためだろう。快哉を叫ぶオペラファンも、少なくないのではないだろうか。

 筆者は観る機会に恵まれていないのだが、イタリアのテレビでは、ヌッチがナビゲーターを務めるオペラの紹介番組があり、好評を得ているという。気さくだと評判の人柄もあってのことだろう。

 そのレオ・ヌッチが、この12月、日本にやってくる。2007年のチューリヒ歌劇場の引っ越し公演以来4年ぶりだ。なかなか聴く機会のないリサイタルであるのも嬉しい。ひとつひとつの曲のドラマに瞬時にして連れて行ってくれる魔法を、存分に体験させてくれるだろうからだ。

 至高のバリトンの至芸に接する日が、今から待ち遠しい。

 
曲目

前半

トスティ: 君なんかもう
F.P.Tosti: Non t'amo più

ヴェルディ: 乾杯
G.Verdi: Brindisi

レオンカヴァッロ: 4月
R.Leoncavallo: Aprile

〜 ピアノ・ソロ 〜

ベッリーニ:《清教徒》~ “ああ、永遠におまえを失ってしまった”
V.Bellini:《I Puritani》~ “Ah! Per sempre io ti perdei”

ドニゼッティ:《ポリウート》~ “あなたの美しい面影が”
G.Donizetti:《Poliuto》~ “Di tua beltade immagine”

〜 ピアノ・ソロ 〜

ロッシーニ:《セビリャの理髪師》~ “私は町の何でも屋”
G.Rossini:《Il Barbiere di Siviglia》~ “Largo al factotum città”

後半

ヴェルディ:《ドン・カルロ》~ “終わりの日は来た”
G.Verdi:《Don Carlo》~“Per me giunto è il dì supremo”
     :《仮面舞踏会》~ “お前こそ魂を汚すもの”
     :《Un ballo in maschera》~“Eri tu che macchiavi quell'anima”

〜 ピアノ・ソロ 〜

ヴェルディ:《イル・トロヴァトーレ》~ “君の微笑み”
G.Verdi:《Il Trovatore》~ “Il balen del suo sorriso”
     :《ラ・トラヴィアータ》~ “プロヴァンスの海と陸”
     :《La Traviata》~“Di provenza il mare, il suol”

〜 ピアノ・ソロ 〜

ヴェルディ:《リゴレット》~ “悪魔め、鬼め”
G.Verdi:《Rigoletto 》~ “Cortigiani, vil razza dannata”

演奏家の希望により、曲目等公演内容に変更が生ずる場合もございます。 あらかじめご了承ください。
※未就学児童の入場はご遠慮ください。

レオ・ヌッチ
バリトン・リサイタル

2010年12月6日(月)19時
Monday, 6 December 2010 at 7p.m.

東京オペラシティコンサートホール
タケミツメモリアル

Tokyo Opera City Concert Hall
Takemitsu Memorial

ピアノ:パオロ・バッラリン
Piano:Paolo Ballarin

チケット発売日

友の会優先発売:好評発売中
DM会員優先発売:好評発売中
一般発売:好評発売中

チケット価格

S:¥18,000
A:¥14,000
B:¥10,000
C:¥7,000

お問い合わせ・お申し込み

東京プロムジカチケットデスク
03-3372-7050

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チケットぴあ(Pコード 107-862)
0570-02-9999

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東京芸術劇場チケットサービス
03-5985-1707

主催:
東京プロムジカ

協力:
イタリア文化会館
NPO日本ヴェルディ協会

協力:
アリタリア-イタリア航空

 
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